2012年2月18日土曜日

Beatlesを君に。

実はいまの起業メンバー3人が初めて会ったのは、2010年11月29日、六本木にあるビートルズバー「Abbey Road」だった。

当時、異常なまでにBeatlesにはまっていた僕は、その時の思いを以前書いていたブログで全6回のエントリーにわけて書きだしたのだが、ちょうど最後のエントリーを書いた日の夜に僕らはAbbey Roadで出会った。

その時は挨拶くらいしかしなかったし、まさか一緒に起業するなんて夢にも思わなかったけど。


でも、会話の中から思いついたビジネスアイデアに興奮し、その日の夜にわーっと友達に話したのが翌年4月15日のAbbey Road、会社をやめることを決意した後、ビジネスプランのプレゼン資料を完成させ、できた当日に資料をみんなにお披露目したのが6月3日のAbbey Roadだった。
(その日は僕ら3人のうち、2人の誕生日パーティーでもあった。結局その日のプランがお蔵入りしたのは以前こちらで書いたとおり・・・。)

僕にとっては思い入れの深いBeatlesであり、Abbey Roadであり、大好きなコピーバンドThe Parrotsなのだが、新しいブログにしてから紹介する機会がなかったので、昔のエントリーをひとつにまとめて転載しようと思う。

ここで紹介している10曲は、いま選んでもだいたい同じ曲になる気がする。もちろん個人として好きな曲は変わってきているけれど、人にオススメするという意味ではあまり変わらないかも。(1曲だけ選から漏れて心残りの曲があるが・・・)

それでは、以下、転載。
以前に読んでくれた方も、再び楽しんでくれたら、幸い。


・・・・・・・・・・・・・・
The Beatlesに猛烈にはまっている。この4カ月、特に最近2カ月は、Beatles以外の音楽を聴いていないと言っても過言ではない。時代順にすべての公式曲を並べて、繰り返し、繰り返し、繰り返し。

きっかけは、遡れば2008年の夏、会社の同僚が留学の送別会を六本木のAbbey Roadという、Beatlesの超本格的コピーバンドThe Parrotsが演奏するバーでやってくれたことだ。驚きの演奏を堪能し、そして同僚からの送別会があまりに嬉しく、日本に帰ってきたらまた行きたいとずっと思っていた。

イギリスに渡った直後、Oasisを特集していた「Q」という雑誌を買ったら、Oasisが94年に初めて日本に訪れた際にParrotsのステージに飛び入りしたという記事があった。ノエルギャラガーとParrotsでのJohn役であるチャッピーさんが写っている写真が掲載されていた。その時の嬉しさったら。。。

帰国後、仕事が落ち着いた8月、友達を連れてAbbey Roadを再び訪れた。そしたらそのうちの一人、tomokoleaが猛烈にはまった。

翌月には、彼女のMBAの合格を友達みんなでサプライズで祝った。また翌月には、他の友達の誕生日祝いもAbbey Roadでやった。

特に、MBAの合格祝いは、自分がやってもらってうれしかったことを”Pay Forward”できて、僕自身が猛烈に嬉しかった。

Abbey Roadは、いつしか仲間の集まる場所になった。

もともとBeatlesは好きだったが、正直なところ赤盤・青盤と、オリジナルアルバムのうち4枚ほど持っていただけだ。オリジナルアルバムは好きな曲だけ聴き、全体としてはものすごく聴きこんでいたわけでもなかった。

が、Abbey Roadに通ううちに、メジャーではない曲の魅力に段々とりつかれていった。
知れば知るほど、深みにはまった。

デビュー後わずか数年の間にロックの歴史を塗り替えたバンド、The Beatles。その声、ハーモニー、ソングライティング、演奏、サウンドメイキング、その歴史に魅せられた。そしてその背後にある、2人の天才、JohnとPaulのストーリーにも。

あまりにハマりすぎたので、いったんここで想いを吐き出してみようと思う。

その名も、「Beatlesを君に」。

メジャーな曲しか知らなかった半年前の僕のような人に、Beatlesの魅力を伝えたい。日本でバカみたいに売れた「Beatles 1」のようなベスト盤しか聞いたことのない人に、それ以外の曲の魅力を紹介したいと、好きな曲を10曲リストアップしてみた。

「Beatles 1」に入っている曲は10曲にはいれていない。どうしても拘りがあったので、青盤収録の2曲は含んだ。バンドの変遷に魅かれたので、あえて時代順に、その時の特徴が伝わるように選んでみた。

はっきりいって、200曲以上の曲から10曲を選ぶのは極めて困難だった。名曲が多すぎるだけでなく、それがあまりにも多様で、同じ軸で比較できないから。Georgeが自ら選んだBeatlesベスト盤が赤盤・青盤の4枚組になってしまったのもよくわかる。テーマを決めないと10曲に絞り込めない。本当は入れたかった曲もたくさんある。

ただ、おかげでBeatlesの曲をたくさん聴けて、相当理解が深まった。難しかったけど、選曲に費やした1カ月は本当に幸せな時間だった、うん。

ぜひ、Beatlesを好きな人も、あまり知らない人も、お楽しみいただければ幸い。

Beatlesを君に。


1.I Saw Her Standing There (1963)

The Beatlesの記念すべきデビューアルバム「Please Please Me」の冒頭を飾る、Paulが歌う8ビートの痛快ロックナンバー。

で、初めてこの爽快な曲を聴いた時の疑問。

「なぜ、Beatlesのデビューシングルはどう考えても『駄作』のLove Me Doだったのか??」

なぜなら、こっちの方が全然かっこいい。。。既にこの曲も2枚目のシングルであるPlease Please Meも完成していたのに、なぜあえてLove Me Doを。。。
(あの曲があらゆる「ベスト盤」の1曲目を飾ることで、多くのBeatles初心者が「Beatlesダサい」って思ったに違いないのだよ。。。)

そこで、ぜひこの曲、I Saw Her Standing Thereを聴いてほしい。今となっては「普通」のロックナンバーに聴こえるかもしれないが、Beatlesが世に出る前は、ロックンロールははっきりいってダサい音楽になっていた。Beatlesが参照していたチャックベリーもラリーウィリアムズもJazzの残り香がリズムに残っていて、どことなく古臭かった。そこに、このJazzのスイゥング感を排し疾走するRingoの8ビートドラムだ。当時初めてこの曲を聴いた人は、新しい時代の幕開けに驚いたに違いない。

演奏が粗いと思うのは仕方ない。当時はアルバム軽視の時代で、アルバム「Please Please Me」はシングル用に録音された曲以外の10曲はたった1日、すべて一発録り(全員同時に演奏)でレコーディングされたのだから。。。

ちょっと大袈裟かもしれないが、21世紀を生きる僕らが知っている「ロック」を最初に世に送り出した記念すべき1曲。



2.No Reply (1964)

The Beatlesの4枚目のアルバム「Beatles For Sale」の冒頭の3曲、いわゆる「負け犬三部作」の1曲目。

Beatlesがデビューしてから特に最初の4枚は、完全にJohnのアルバムだ。例えば3枚目の「A Hard Day's Night」に至っては13曲中10曲がJohnの曲。時間に追われる中、たった2週間で7曲を新たに作曲、録音しなければならないという状況に置いて、Johnは毎日のように次々と名曲を生み出していく。

しかし、最初の4枚がJohnのアルバムだというのは、曲数以上に、ボーカルのクオリティにおいてだ。Paulや(当然に)Georgeを凌駕している。Johnが歌うからこそ「持っている」曲もたくさんある。後年、Johnの声がサウンドの一部として無機質化していくのを考えると、この頃のJohnは、ロックンロールからバラードまで、実に多彩に、情感を持った歌い方をしている。20代前半の若者とは思えないほど成熟している。

一方でボーカルについて言えば、「A Hard Day's Night」と「Beatles For Sale」を出した64年ほど、John、Paul、Georgeのコーラスワークが冴えわたった時期もない。メンバーそれぞれがマイクを分け合い、競うようにして声を枯らす姿。最高にクールだ。

そこでこの曲。何度言っても浮気をやめないガールフレンドに向けて、罵り、懇願するという、Johnの真骨頂のような曲。"This happened once before(まただよ・・・)"とイントロなしで歌いだした瞬間に、そのストーリーを伝えきるのは見事。

Johnのザラついた哀愁のあるボーカルが印象的だ。と、思いきや、軽快なバースから突然シャウトに変わり、サビに向かってPaulとともに力強く上昇していく。ハンドクラッピングと共に高揚の伴うサビに至るに、ロマンチックで切ない恋心を歌っただけの曲が、完璧な構成とパワフルなメロディーを持つ、完成度の高い曲であることに気づく。

そして、この頃を最後に、ロック・カントリー・R&Bなど様々な既存の(ただしビートルズ流にアレンジされた)フォーマットに乗せて、若者のたわいのない恋を歌う曲は、姿を消していく。

No Replyは、初期のBeatlesの魅力がつまった曲だ。



3.I'm Down (1965)

5枚目のアルバム「Help!」と同時期にレコーディングされたシングル「Help!」のB面に収録されたPaulの曲。

Help!というアルバムは、それまでの奇跡のロックンロールバンドとしてのBeatlesと、アーティスティックな世界に傾倒していく次作以降の端境期にある、ややフォーカスを欠いたアルバムだと思う。Georgeが使うワウペダルやPaulがアルバム全般で披露するエレクトリックピアノのアレンジも、どこか中途半端だ。一方で、中途半端なアレンジがなされていない曲、つまりYou've Got To Hide Your Love Awayや、I've Just Seen A Face、そして名曲Yeasterdayなど、素晴らしい曲もある。

そんななか、Help!と同時期にレコーディングされたのがこの曲。

Paulと言えばシンプルで甘いバラードのイメージが強いが、Paulが本気でロックンロールを歌ったらものすごいことになるという好例が、カバー曲のLong Tall Sallyとこの曲、I'm Downだ。Twist And ShoutなどJohnが歌うロックンロールもすごいが、Paulの弾けぶり、のたうちまわり度(?)は時にJohnを超える。頭のてっぺんを突き抜けて行く高音のシャウトはPaulならでは。

Johnが低い声で"Down…"とあわせるコーラスや、間奏でJohnがでたらめに弾くオルガン、Georgeの突き刺すようなギターソロと、パワフルなロックンロールナンバーに必要な要素が揃っている。ライブの最後を締めるにふさわしいような、最高に楽しい1曲だ。

余談だが、この曲がレコーディングされた日は、同じ日にI've Just Seen A Faceを録音し、そのあとにこの曲、そして散々シャウトした後、そのままYesterdayを録音している。まったくタイプの違う3曲を一日で録音しきったPaul、恐るべしだ。まさに天才。



4.You Won't See Me (1965)

6枚目のアルバム「Rubber Soul」の3曲目に出てくるPaulの曲。

Rubber Soulは、7枚目以降のアルバムと比べればじっくりとレコーディングに時間を使えたわけではないものの、初めてアルバムが「シングル+その他の埋め合わせの曲」ではなく、アルバムそのものを1つのアートとして捉え始めた、そしてBeatles自身がライブで演奏することを前提としないで曲作りを始めた、最初のアルバムだ。

色々な意見があるかもしれないが、Beatlesをベスト盤以外で聴いたことが無い人に初めてBeatlesのオリジナルアルバムを勧めるなら、迷わずこのアルバムだ。アクは強くないが、Beatlesのアーティスティックな部分が存分に詰まっている。そしてJohnとPaulの両方の魅力が詰まっているバランスのよいアルバムでもある。これぞBeatles、の1枚だ。

JohnのNorwegian Wood、 Nowhere Man、 Girl、 In My Life、 そしてPaulのMichelle、Drive My Car。Rubber Soulの名曲をあげたらキリがないなかで、このYou Won't See Meというどこまでも極上なコマーシャルソングは、そっと名曲の間に入っている。この曲自身が名曲かどうかはわからない。でも、Rubber Soulにはなくてはならないと思わせる、ファルセットのハーモニーがとても美しい曲だ。

録音日がRubber Soulの中で最後であることを見ると、曲数の埋め合わせの為にPaulが「やっつけ」で作った曲なのだろう。ただ、こんなやっつけで作った曲、あるいはJohn自らが一番嫌いな曲と公言しているRun For Your Life、Georgeの書いたIf I Needed Someoneなど、ベスト盤には入ってこないが皆すばらしい曲だ。そしてこれらの曲が、このRubber Soulというアルバムには欠かせないと思わせるところが、この頃のBeatlesの凄みなのではないかと思う。



5.Tomorrow Never Knows (1966)

7枚目のアルバム「Revolver」の最後を飾るJohnの曲。Revolverを象徴する曲とされる。

Beatlesが初めて時間と心の余裕を持って製作に入ったアルバムで、最初にレコーディングした曲。初めての休暇の間の、LSDによる幻覚症状がもたらすパワーの体験、そしてトリップ状態の目に移るカオス的ヴィジョン。これを、テープループを用いて表現しようとした実験的でサイケデリックな曲。

エフェクトがかけられた不気味なボーカル、低く唸るドラム、(ポールの提案らしいが)カモメのような摩訶不思議なサウンド、同じメロディーを繰り返すだけの単調なメロディーライン・・・。

どれもこれもがそれまでのBeatlesとはまったく違う世界にリスナーを誘う。かつて素晴らしかったJohnのボーカルは、もはやサウンドの一部でしかない。Johnの興味はほんの1年前まではソングライティングとリリック表現にあったはずだが、この時点では未知のサウンドへの希求となっている。

Paulが、Eleaner Rigby、Yellow Submarine、 Here,There and Everywhere、 For No One、 Got To Get You Into My Lifeなど、幅広い作風の素晴らしい曲を数多くアルバムに提供し、誰が見てもPaulのBeatlesにおける存在感が増してきたのがわかるこの時期。

ただ、このTomorrow Never Knows1曲の存在でJohnがPaulを大きく引き離したと言える、そんな高い頂にある1曲。まるで古さを感じさせないこの曲の凄みをぜひ楽しんでほしい。この曲を当時の人が初めて聞いたとき、どれだけ時代の最先端の凄みを感じたかを想像しながら・・・。

(ちなみに、僕のiTunesに入っているBeatlesの曲の再生回数を調べたら、この曲が全曲で1位だった。それくらい何度も聴いた曲)



6.Rain (1966)

シングル「Paperback Writer」のB面に収められた曲で、Johnの曲だが一部Paulも作曲に参加している。Revlolverのレコーディングセッションの中でレコーディングされた。

先にあげたI'm Downもそうだが、BeatlesのシングルB面曲のレベルはものすごいのだ。

そもそも、Beatlesは基本的にシングル曲をアルバムに入れない。それこそ、初期ではShe Loves YouやI Want To Hold Your Hand、I Feel Fineなど、後期ではDay Tripper, Hey Judeなどのシングルはオリジナルアルバムに入っていない。また、JohnとPaulの力が拮抗するようになってからは両A面扱いのシングルが多く、もはやA面・B面の違いも意味をなさない。レコード会社側の都合で後からアルバムに入れられてしまったが、JohnのStrawberry Fields ForeverとPaulのPenny Laneを両A面にしたシングルは、ロック史上で最大最強のシングルだろう。

そこで、PaulのPaperback WriterのB面に収まっているこの曲だ。

Revolver期というより、先にあげたTomorrow Never Knowsのレコーディングの1週間後にレコーディングされていることもあり、同様にサイケデリックな雰囲気が前面に出ている曲だ。テープの逆回転などの実験的要素も同様。ただ、Revolverに収められている曲よりも、曲そのものがポップな感覚を有していて、革新性とポップさがうまく融合しているという意味ではRevoloverの曲群を超える傑作だといえる。

この曲の一番の聴き所は、Ringoのドラミングだろう。

どう考えてもBeatlesの曲の中でも最高の出来。強くたたきつける雨を表現したかのような、不規則だが迫力のあるスネアの連打がたまらない。Ringoの、JohnとPaulの出方を伺いながら醸し出す独特のグルーブがないとBeatlesの曲は完成しないが、この曲でのRingoの存在感はすごすぎる。

そしてもうひとつの聴き所が、まるで歌っているかのように動きのあるPaulのベースラインだ。途中の早弾きも含めてこんなにベースがよく動く曲は他になかったんじゃないかな。

Johnが見たであろう幻想的な世界に、この曲を聴きながら飛び込んでみよう。



7.A Day In The Life (1967)

8枚目のアルバム「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」のラストを飾る曲で、JohnとPaulがそれぞれ作曲した2曲を繋げて1曲にしたというコラボ曲。麻薬を連想させる歌詞のためBBCで放送禁止になった曲でもある。

Stg. Peppersは、Beatlesではない架空のバンドによるアルバムという設定で作られており、述べ700時間も製作に費やされた、世界で初めてのコンセプトアルバムと言われている。ヒッピー全盛時代の渦中に登場した、時代の最高傑作、伝説のアルバムである。Beatlesの最高傑作であると評するファンも多い。

このアルバム以降、アルバムは何らかのコンセプトを持つべきであるというトレンドも生みだした。結果として、コンセプトアルバムが当たり前になった現在、発表当時のインパクトに比べていま改めて聴いた場合のインパクトが最も低くなっているアルバムとも言えるかもしれない。

では、このアルバムがBeatlesの最高傑作かというと、僕はそうは思わない。コンセプトもタイトルもジャケットデザインも、全てPaulのアイデアによるもの。ノリに乗っていたPaulが突っ走って作り、乗り気でなかったJohnがなんとか最低限の曲数だけ提供してできたこのアルバム。ソングライティングそのものはそれほどクオリティが高いとは思わない。Paulの、というよりもGeorge Martinの仰々しいサウンドはやや行き過ぎている感もある。4人の個性が最も見えないアルバムとも言える。

もし、このアルバムに本曲、A Day In The Lifeがなかったら、単に遊び心にあふれたおもしろいアルバム、で終わっていたのではないかと思う。しかしながら、この曲が最後に入っているからこそ、Sgt.Peppersは崇高な雰囲気を纏うのだ。

JohnとPaulのそれぞれの曲をつなぐオーケストレーションが極めて印象的だ。40名のミュージシャンが恐ろしいほどの壮大なスケールで低音から高音まで上り詰め、大音量の直後、静寂を極める。2度目の静寂の直後の、沈黙を打ち破るピアノのワンコード。長く、うやうやしい空気の中1分ほど続く残響音。

仰々しいサウンドが続くこのアルバムの中でも最もサウンドに凝ったこの曲が、他の曲とは別格の佇まいで輝くのは、何よりもメロディーそのものが美しいからだ。John作曲、Paul作曲の部分とも、アコースティックギターで弾き語りをしたとしても美しい曲になっていただろう。だからこそ、凝ったサウンドを身にまとっても、その派手さに負けないのだ。

Johnが明らかにPaulをライバル視し始めたこの時期に、JohnとPaulの共同で作られたこの曲。Beatlesだけでなく、ロック史上の最高傑作のひとつとして輝く最高の曲だ。



8.I Am The Walrus (1967)

アルバム「Magical Mystery Tour」に収められた、Beatlesの曲群の中でも難解を極める、Johnによる1曲。

Magical Mystery Tourは前作のSgt. Peppersと同じ年に作られているが、これも覚醒したかのように性急に曲を作り続けるPaul主導によるもの。このころにはJohnはPaulのアイデアすべてに否定的な考えを持つにいたっている。

もともと6枚組のミニアルバムだったこのアルバムにJohnが提供しているのはこのI Am The Walrusの1曲だけだ。先のA Day In The Lifeの選曲もそうだが、僕はこの頃のPaulの作風があまり好きではないのかもしれない。というよりも、数少ないJohnの存在感のあるサイケな曲が目立ちすぎるのか。。。

多数のオーケストラとコーラス隊を引き連れ、重厚で不気味なサウンドに乗せて「僕はセイウチ」と難解な歌詞を歌うJohn。マスコミやリスナーを混乱させることが目的だったのかもしれない。

Paulが作る曲は、産みの苦しみなどなく、まるでそこに最初から存在していたように自然で美しいメロディーを奏でる。一方でJohnの曲は、試行錯誤の上、苦しんで生み出した感が常に漂う。Paulは作曲家であり、Johnは表現者だったということか。このJohnのBeatles史上最も難解な曲がシングルとして発売されたとき、そのカップリングは、Beatles史上最もシンプルでわかりやすいHello Goodbyeであったのも、この2人の特徴を浮き彫りにしているように思う。

I Am The Walrusはその後Oasisがいつもライブの最後に演奏していたことでも知られている(彼らはBeatlesの別の曲、Helter Skelterをラストに持ってきていた時期もあったと思う)。この曲は、その不気味な雰囲気とは違い、意外とライブでもノリが出る曲だ。

表現者たるJohnが生み出したこのサウンド、ぜひ大音量で楽しんでほしい。後半にかけての、笑い声とも掛け声ともつかない声が響くアレンジは必聴だ。




9.Blackbird (1968)

2枚組の大作「The Beatles」(通称「White Album」)に収められたPaulのシンプルで爽やかなバラード。

White Albumは、一言で言ってしまえば、ソロの曲の集合体だ。Johnとそのバックバンド、Paulとそのバックバンド、Georgeとそのバックバンド。。。。メンバーが仲違いし、RingoやGeorgeの脱退騒動でも揺れたこの時期、ほとんどの曲が4人集まることなくレコーディングされている。故に、かつてないほどコンセプトがバラバラのとっちらかったアルバムだ。しかも2枚組、30曲。とても、Sgt.PeppersとMagical Mystery Tourという完璧なコンセプトアルバムを出した翌年のアルバムだとは思えない。こうも簡単に過去のサウンドを捨てることができるものなのか。

当時、このアルバムの評価はすこぶる低かったらしい。だが、僕はこのアルバムがBeatlesの最高傑作だと思っている。いや、Beatlesに限らず、あらゆるアルバムの中から無人島にもっていく1枚を選べと言われれば、これだ。

ロック、レゲエ、ソウル、ブルース、フォーク、カントリー、ポップス、へヴィーメタル、さらにはアヴァンギャルドと、ありとあらゆる音楽的要素を含むアルバム。JohnとPaulの、自尊心、嫉妬心、エゴなど、様々な感情がほとばしり、ぶつかっている。結果、どこまでも個性的な名曲の宝庫になっている。

一般的に、僕は2枚組のアルバムというのはどうも散漫とし、曲のクオリティーも低下し、あまり好きになれないことが多い。おそらく過去好きになった2枚組アルバムはひとつもない。唯一、White Albumを除いて。

Sgt.Peppersのように交響楽を取り入れたコンセプトアルバムは、その後ある種のフォーマットとして定着した感もあるが、White Albumのようなとっちらかった2枚組で、かつ名曲ぞろいというのは、ロック史上誰も成し遂げていない快挙ではないだろうか。

White Albumのサウンド面の特徴は、極めてシンプルなサウンドの曲が多いことだ。アレンジがどれもミニマム。4人集まっていないからか、ギターだけのシンプルな演奏のバラードも多い。名曲ぞろいのこのアルバム、好きな曲をあげたらキリがないのでやめておこう。(僕のiTunesの再生回数は、トップのTomorrow Never Knowsを除き、上位はほとんどこのアルバムで占められている。。。)

そんな中で、もっともシンプルで美しいバラードが、このBlackbirdだ。

Paulはやはり天才なのだろう。歌がうまいとかそういう話ではなく、聴いた瞬間にPaulの曲だと誰もがわかる。どこかで聴いたことのあるような、誰でも作れそうな、それでいて実際はPaul以外には絶対に書けない、誰の心にもすっと入ってくる完成度の高いメロディー。アレンジで使う楽器の選択も時に実験的だが、聴いてみるとその楽器しかありえなかったと誰もが思うほど自然にフィットする。

鳥や自然の歌というよりも、Black=黒人、bird=英国英語で女の子なので、当時の公民権運動やウーマンリブを意識した曲ではないかと思うのだが、そんな解釈はどうでもよいと思わせる、美しい曲。アレンジは鳥のさえずり音と足を踏みならすリズムだけだが、これがまた完璧すぎる。

Paulの魅力が最も発揮された1曲。



10.
Golden Slumbers (1969)
Carry That Weight (1969)
The End (1969)

「実質的に」ラストアルバムである「Abbey Road」の最後を飾る、つまりBeatlesとしての最後を飾る3曲のメドレーだ。(好きな10曲を選ぶといいながらここで3曲を1曲として扱うのはご容赦されたし(笑)。なお、厳密にはこの曲のあとにHer Majestyという極短い曲がおさめられている)

White Album後、崩壊の危機にあったBeatlesは、原点に戻ろうと「Get Back」という名のアルバムを一旦は作成した。しかし、他人に完成を託したそのアルバムは、結局本人たちがボツにしてしまった。そんな悲惨な結果を打ち消すため、Beatlesとしての「有終の美」を飾るため、再度4人が集まって作られたアルバム。それがAbbey Roadだ。

Abbey Roadは恐ろしいほど完成度が高く、その一方でものすごく空虚なアルバムだ。

Johnの趣味が発揮され、またGeorgeの2大名曲、SomethingとHere Comes The Sunが出てくるアルバムの前半は、曲の特徴が際立っていて素晴らしい出来上がりだ。一方でアルバム後半は、過去に曲にしようとしたが完成しなかった未完成の曲の断片を、Beatles流の超一流のアレンジ力でつなぎ合わせて、曲に仕立て上げている。

2回のメドレーが出てくるがそれは短い断片を無理やりつなぎ合わせたものだし、独立した曲も、よくよく聴いてみると全然違う曲をたくさんつないでできているだけだ。このアルバムを駄作という人は、このあたりを理由にあげる。

それでも、タイトな演奏や質の高いヴォーカルハーモニーは、有終の美を飾るには相応しい出来だ。ここにはWhite Albumにあったようなむき出しのエゴはなく、お互いに妥協したメンバーが生み出すサウンドが空虚に、しかしながら美しく存在している。これは、消えゆくBeatlesが、かつてのBeatlesの栄光を再現して演じているアルバム、と言えるかもしれない。

最後のメドレーの3曲。冒頭はGolden Slumbersの"Once there was a way to get back homeward"という切ない歌いだしで始まる。いよいよ、終わりの始まりだ。。。

続いて「2曲目」で"Boy, you're gonna carry that weight. Carry that weight, a long time"とPaulが歌う。このWeightとは一体なんだったのか。Johnが事故の為レコーディングに参加できなかったこの曲。WegihtはJohnに向けた「Beatlesを崩壊させた責任」か、あるいは解散の元凶とも言われている「オノヨーコ」か。複雑な思いをめぐらさざるを得ない。

そして、同アルバムの中でも力作の別の曲、「You Never Give Me Your Money」の1節がメドレー2曲目に再登場した後、メドレー最後のThe Endの演奏が高らかに鳴り響く。

Beatles全曲の中で、唯一のRingoのドラムソロが入る。その後JohnとGeorgeが互いにギターソロでぶつかり合う。メドレーのクライマックスを早く聴きたいという気持ちと、これで終わってほしくないという思いを見事に交錯させるサウンド。。。

最後、静かなメロディーに乗せて、"And in the end the love you take is equal to the love you make"という、Beatles流の告別の辞とも言える一節を美しいハーモニーで残して、このメドレー曲は終わる。

なぜに最後の曲が「The End」なのか。この、全員が解散に合意して作ったかのような最後。悲しみが込み上げてくる。。。

切なく、悲しみに満ちたAbbey Roadが発売された後、Beatlesの手を離れた先のアルバム「Get Back」は、アメリカ人プロデューサーのPhil Spectorの手を経て、「Let It Be」と名前を変えて発売される。最悪なレコーディングを蘇らせたとの評価もできるが、出来に納得しなかったPaulは憤慨し、またアルバムはマスコミにも酷評され、Get Backセッションのドキュメンタリーが発売される頃には、遂にPaulがBeatlesの脱退を表明した。

1970年末、Paulは残りの3人を相手取ってBeatlesの解散等を求める裁判訴訟を起こしている。

Beatlesの夢はここで終わったのだ。

そんな、夢の終わりを目に、耳に刻むこむ、悲しみに満ちた曲。
(オリジナル音源の映像がなかったのでPaulのライブ映像を・・・)

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